本日は、「遺伝子形式2つの表記変更」について学びなおし。
1990年生まれの私が学校に通っていた頃、遺伝子形式2つの表記は「優性・劣性」と教えられました。
しかし今では、その表記の見直しが進んでいるそうです。
新しい表記は「 顕性 」と「潜性」
2021年度(令和3年度)から、中学生理科の教科書に載る遺伝子形式の表記が「優性→顕性(けんせい)」「劣性→潜性(せんせい)」に変更されました。
教育出版のHPによると、変更理由は「2017年の日本遺伝学会からの提言により、遺伝子に優劣があるとの誤解を避けるため、優性・劣性の表現を改めることとなった経緯によるもの」だそうです。
そもそも「優性」「劣性」とは?
優性遺伝の意味を「優れた遺伝子」と思っている大人って、実は多いのではないでしょうか?
私自身もこれまで、はっきりと定義できていませんでした。
しかし、よくよく調べてみると、遺伝子形式における優性とは、 以下のような意味だそうです。
- 片方の親の遺伝子の特性を押さえつけるような遺伝子
- 50%(1/2)の確率で病気に関係する(=優性遺伝による疾患が存在する)
さらに、劣性とは以下のようなものとして説明されています。
- 父親と母親が同じ特性の遺伝子を持つとき初めて子に現れる遺伝子
- 1個では身体に症状を起こさない
もっと詳しく知りたい方は、JAPCOのHPに読みやすい解説文があったのでご一読をおすすめします。
総括すると、優性遺伝とは決して「優れた遺伝子」を意味するものではなく、「片方の親が持っているだけで子どもに受け継がれやすい遺伝子の特性」のことであり、病気も優性遺伝することがあるということです。
「優性遺伝」と「優生思想」を完全に分けて考えたい
上のことを踏まえると、優性遺伝を根拠にした「優生思想」や「優生学」は完全に的外れと言えます。
優生思想とは、身体的・精神的に優れた能力を有する者の遺伝子を保護し、逆にこれらの能力に劣っている者の遺伝子を排除して、優秀な人類を後世に遺そうという思想です。
この時点ですでに遺伝子形式の「優・劣・遺伝子」とは全く別の意味であることがわかります。
また、優生学とは、人類の遺伝的構成の改善を目指して、劣悪な遺伝形質の淘汰、優良な遺伝形質の保存・増加について研究する学問をいいます。
優生思想が学問として発展し、遺伝子に優劣をつけて淘汰したり保存・増加を図るための研究を行うというのです。
繰り返しになりますが、優生思想および優生学が使っている「優・劣・遺伝子」という言葉は、遺伝子形式のそれとは全く意味が違います。
優生思想・優生学にとっての「優」とは、「自分たちに都合のいい特性」に他ならず、ましてや遺伝学や生物学や民俗学の根拠に基づくものではないのです。
優生思想を支持しちゃいけないシンプルな理由
「なぜ優生思想を持ってはいけないのか?」という問いに対する単純明快な答え。
それは「根拠がないから」です。根拠なくして人を排除してはいけないのです。
ナチスは、ユダヤ人を「劣った民族」と主張しましたが、それは一部ドイツ人(ゲルマン民族)にとって歴史的・社会経済的に都合が悪い民族だからです。
また、相模原障害者施設殺傷事件の犯人も、「障碍者は自分にとって不要」という思想を拡大解釈し「社会にとって不要」にすり替えてしまったことが原因ですが、障碍者は法律上はっきりと生存権で守られています。ホームレスの方も同じです。
さらに、LGBTなどの方々を「生産性がない」と言って排除する動きも、それに根拠はありません。
大前提として、子を産む産まないの選択は国の生産性向上ために行うものではなく、現代は個人の自由意志によるものです。また、同性同士でカップルになっても、代理出産という選択肢があります。
このように、度々議論になる優生思想にはベースとなる根拠がなく、時々それを「優性遺伝」の誤った解釈で説明しようとする人がいますが、多くの専門家が述べている通り遺伝子に優劣はないのです。
「優性って何だっけ?」という社会がいい
今回、教科書の表記が変わって 「優性→顕性(けんせい)」「劣性→潜性(せんせい)」に変更されたことは、とても喜ばしいことです。
優性遺伝と優生思想が完全に切り離され、さらに「優性」という言葉自体が過去のものになれば、子どもたちが今の一部大人たちのような誤解をする可能性が減ります。
いつかうちの子どもたちから「”優性”って、何? ”優生”は歴史で習ったけれど……”優勢“の間違いじゃないの?」なんて言葉が聞こえてきたらいいなぁと思います。
直接的な差別偏見を意味しなくても、このように使われなくなっていく言葉(表記)があること。勉強になりました。
では、また次回!